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夢現(ゆめうつつ)5 [小説・詩作]

    5 悪夢

天気はまさに快晴であった。インターから高速に入った直人の車は、どうみても
不自然であった。車の流れに逆行しているかのように、速度はどうみても50キロ
もだしてはいない。直人は細心の注意を払って運転した。
それでなくても、気がつくとこれからの人生設計が、頭のなかで目まぐるしく駆け
回る。気を取られて事故でも起こしたら大変である。サービスエリアで何度となく
休憩をとりながら、通常の2倍の時間をかけて浦安インターにたどりついた。
インターを降り、一路目的地へ向かう。知らない道を走るのは本当に疲れる。
午前11時過ぎ、待望の目的地に着いた。直人は大きな仕事をやり遂げたかのように、
ほんの少し安堵感を得た。
今日は、アトラクションを4つ位乗る予定だ。その後は予約してある都内のホテルで
一泊し、明日、再度、遊園地に行って遊び、午後4時頃帰路する。

 夏休みということもあって、想像している以上に人、人、人であった。お目当ての乗り
物は、当然人気があり、びっくりするくらいの行列ができている。まともに待っていると
3時間はかかりそうだ。取りあえず、比較的空いている乗り物に変えることにした。
妻と博子が乗ることにし、行列に加わった。直人はベンチで1人待つことにした。

 一人にきりになって、直人は改めてこの日の大きな出来事を考えていた。
(冷静に考えて、まず何をすべきかを整理しなくては。銀行に行って換金は当然だが、
とりあえず普通預金でいいのか、いや公社債投信なら利率がいいはずだ。ばか
やろう、1億5千万だぞ、利率など考えてどうする。礼子は家を新築しろと言うのだろ
うな。だが、直ぐに立て直す必要はあるまい。俺はいつ辞表をだせばいいのか。
慌てる必要はなかろう。辞める理由もそれらしいことを考えなくちゃいけない。
一層のこと働かず暮らせないか。1年で、5百万生活費がかかるとして、おお、
それでも30年暮らせるじゃないか。まてよ、以前テレビか何かで、どこからとも
なく寄付しろとか、嫌がらせの電話だとか当選者にまとわりつくらしいな。
絶対にばれないようにしなくては。親にも言えないのかもしれない)

思い浮かぶことが、何か狡賢いよこしま邪な考えに、急に嫌気がさしてきた。
(俺という人間は、一体なんて卑劣極まりない。夢が現実となり、
人間の本性が出ると言うが、こんな自分本位のことばかり考えるなんて、運も逃
げてしまう。その点礼子には、欲がないように見える。車中でも一言もその件に
は触れなかった。博子にアトラクションの楽しい乗り物の話しなどを聞かせていた)
一層のこと、全額寄付でもするかと考えたりもしたが、それはやはり実行しない
だろうと、一人苦笑いを浮かべた。
(やはり両方の両親にはきちんと報告し、1千万円くらいは渡そう、それがせめて
もの恩返しだ)

「パパすごく面白かった。」
博子が、興奮しきった表情で、直人のところへ駆けてきた。その後、妻もにこにこ
しながら、近づいてきた。
「そう、よかったね。別の乗り物に乗ればいい。」
「こんどはパパと一緒に乗りたい。」
自分はいいと言ったが、娘は聞かなかった。はんべその状態である。
礼子に当たりくじの入った鞄を持っていてくれるか聞いてみたが、とんでもない
と言う。直人は仕方なく鞄を抱いたまま、博子につきあう事になった。コインロッ
カーにでも入れておけばよかったと、今更ながら後悔していた。
「その前に喉が乾いた。自販機でジュースを買ってくる。それから並ぼう。」
直人はそう言って二人を残し、自販機に向かった。
(礼子がりんごジュースで、博子がオレンジジュース、そして俺はコーヒーと、
一缶2百円?、観光地は高いな)
ぶつぶつ独り言を言いながら財布から小銭をだし、最初にりんご
ジュースのボタンを押した。ガラガラガチャーンと音とともに、よく見ると2缶
でてるではないか。押したりんごジュースとともにコーヒー缶が並んでいる。
(前の客が忘れたのか。ラッキーだ。自分の買おうとしていたコーヒ
ー缶ではないか。本当についている。いやまてよ、今世間を騒がしている毒入り
ジュースかもしれない)
よく調べたが、穴のあいている様子もない。それによく冷えている。
万が一のことを考え躊躇した。しかし結局誘惑に負けた。周りを見たが、当事者
らしい人はいないようであった。残りのオレンジジュースを買って、歩き始める。

「ちょっとお兄さん。」
どすのきいた低い声が、直人の背後を抜けてきた。振り向くと、いかにもその
筋らしいサングラスをかけた30がらみの男2人がたっていた。
「人のジュース、黙って持っていくなんて、あんた泥棒かい。」
薄ら笑いを浮かべながら片方の男が言う。しらばくれようか迷ったが、
謝るのが得策と考え、
「すいません。お返しします。いや、これ買わせてもらいます。」
「買ってもらえるの。なかなか人間ができてんじゃない。そうね、おまけして
一本、3万円ね。」

恐喝だ。明らかに恐喝だ。このようなところに来るような客は大金を持っている
と考えたのだろう。大声をだそうか迷った。しかしこんな時に限って警備員らしき
人がいない。鞄さえ取られなければいいのだ。素直に従うのが得策と考えた。

「分かりました。3万支払います。」
2人は意外そうに顔を見合わせたが、次の言葉が致命的であった。
「大事そうに抱えているその鞄も貰おうかな。」
これだけは何があっても阻止しなくては。しかし頼んで納得するよ
うな野郎ではない。直人は、持っていた缶ジュースを相手にめがけて思い切り投
げつけ、駆け出した。だが、である。すぐさま襟口を捕まれると、顔面を強打さ
れた。1発、2発、3発目までは記憶にあったが、やがて意識を失った。

<続く>


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